書籍情報

恋の迷宮に溺れて【書下ろし】

恋の迷宮に溺れて【書下ろし】

著者:墨谷佐和

イラスト:史堂櫂

発売年月日:2015年11月06日

定価:990円(税込)

「あっ、欲しい……ちょうだい。もっと……」 恋人だった飯塚省吾は会社の後輩と結婚して海外の支社に転勤していった。浅野俊樹は失意の中、見送りのデッキで出会った7歳年下の省吾の弟・友也とセフレになってしまう。無神経で生意気で、とてつもなく色っぽい生き物・友也にセックスを教え、友也を受け入れ快楽に溺れてゆくが……!しかし、俊樹はいつも、省吾のことが気がかりでいた……。

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登場人物

春日友也(カスガ トモヤ)
『アニキ大好きっ子』と称する、義兄の飯塚省吾の弟。大学1年生、20歳。省吾の別れで落ち込んでいる俊樹に近づき、寂しさを共有するように、慰め合おうと俊樹に迫って体の関係をもつ。
浅野俊樹(アサノトシキ)
華奢な身体。中世的な顔立ちの27歳。大学のテニスサークルで省吾と出会い、20歳から付き合い恋人になり、それから5年自堕落なセックスを繰り返していた。省吾の海外転勤の見送りの時に、省吾の弟・友也と出会いセフレになる。

立ち読み

「あ……う」
友也に後ろから貫かれて、ぼくは掠れた声を上げた。
つながってから、もうどれくらいの時間が過ぎただろう。
何度も体位を入れ替えさせられ、揺さぶられ、ぼくは何度となく果てたのに、友也の怒張は衰えをみせるどころか精を吐き出すこともしなかった。満足することをせずに、硬いまま、熱いままにぼくをかき回し、打ちつけることをやめようとしない。
「あんたが悪いんだ」
ぐったりしたぼくの上半身を引き上げながら友也は言った。ぼくはそのまま背を向けて友也の足の上に座らされる。露になったうなじに顔が埋められた。
「あんたが俺の傷を抉(えぐ)ったんだ……俺がどうしても手に入れられなかったものを、あんたは俺に見せ付けたんだよ……」 「あっ、あっ……」
「あの時も、あんたは省吾にこうやって抱かれてた。下から省吾が突き上げたら、やらしい声を上げて……!」
「ああっ! や……」
言葉の通りに突き上げられて、煽られた通りの声を上げてしまう。
「そのまま前を扱かれて、もっと、もっとって泣いたんだよ」
「触って……もっと触って、ともや……ともや……ああっ……んんっ!」
ぼくのものを扱く速さとタイミングが、真下からの腰の突き上げと連動する。もう何度も吐き出して、出るものなんかないと思っていたのに、再び勃ち上がったぼくのそれは、射精感を訴えてふるふると震え始めた。
長時間つながり続けたために、もう下半身に感覚はない。それなのに、突き上げられるその時だけ、閃くような快感がぼくを襲う。身体中の感覚が、突かれたそこに集まってくる。
友也の膝頭に指を喰いこませ、ぼくは必死でその感覚をやり過ごそうとした。
「俺は、あんたたちが抱き合っているのを見て、男同士でもそうやって愛し合えるんだって知った……でも、省吾は俺を抱いてくれなかった……好きだって言ったのに……ねえ、俊樹さん」
友也はぼくの顎をつかまえて、ぐっと自分の方を向かせた。
「弟だから? 弟だから俺はだめだったの?」
「と……もや……」
「俺はだめでも、他人だから俊樹さんは愛されたの?」
友也の目に、かつて同じような問いを省吾にぶつけた自分の姿が重なって見えた。「男だからだめなのか?」と省吾に詰め寄ったぼく自身を。
「俺はね、俊樹さん」
友也はつながったままで、ぼくの身体を反転させた。襞がよじれるその刺激で、ぼくはまたあられもない声を上げてしまう。 「今更、省吾が女を選んだことなんてどうでもいいんだ。自分が愛されなかったなら、省吾が誰を選んでも一緒なんだ。でも、あんたは違う。あんたには、どうしてもそうやって思えないんだよ」
「あ……なん、で……?」
つながったままのそこから快感がじわじわと漏れ出して、ぼくは上手く喋れなかった。
「わからない」
答えた友也の顔は頼りなげだった。思わず抱きしめてやりたくなるような、寂しい子どものような表情。親を探す迷子のような目。
「ただ、俺は省吾に抱かれたあんたが憎くて、羨ましくて……あんたに会うと、いろんな意味で苦しいんだ。だから省吾の代わりを見つければそれで何かすっきりするかと思ったけど、でも駄目だった……」
「結局……秋元は、省吾じゃ、ないんだ……よ」
「うん……」
ぼくの頬に友也は自分の顔をすり寄せてきた。頬が濡れている。泣いているのだろうか? ぼくはその頭を、そっと抱き寄せてやる。
「ぼくといると……苦しかった……?」
「めちゃめちゃにしてやろうと思うのに、そうすれば気が済むと思うのに、あんたとするとすごくよくて……酷くしても、優しくしても、あんたはいつも俺を受け入れてくれた。俺が省吾の名前を呼んでも何も言わなくて、だから、いつでも俺はあんたのことが抱きたくて……」
一生懸命に言葉を選んで、友也は自分の気持ちを伝えようとする。ぼくはその一つひとつに耳を傾ける。ぼくたちがこんなに正面から向き合ったことは、きっと今までなかった。
「愛してるよ、友也」
ぼくは、初めて友也にその言葉を告げた。随分前から気づいていたのに、心の奥に鍵をかけて仕舞いこんでいた言葉。でも、その鍵を外したのは、友也だった。
「ぼくは、おまえのことがすごく好きだよ」
「俊樹さん……」
「だから、おまえに抱かれるのが嬉しかった」
「嘘だ」
「嘘じゃない」
「だって……」
友也は怯えたような目を向けた。
「あんたは省吾の恋人だったじゃないか……それに、俺は弱ったあんたにつけ込んで、傷つけるようなこともいっぱいしたのに……」
「省吾を忘れさせてくれたのはおまえだよ、友也。気紛れで冷たいくせに、子どもっぽくて甘え上手で、すごくエロくて……なんでだろうな。気がついたら、ぼくはおまえに夢中だったんだよ」
「でも……!」
「ん?」
ぼくは俯(うつむ)いた友也の顔を覗きこんだ。身体のつながりはいつしか解かれ、ぼくは友也の膝の前に座り込んでいた。 彼が言おうとすることを、ぼくはずっと前からわかっていた。それを聞くのはやっぱり辛いけれど、友也の心が軽くなるようにと、ぼくは次の言葉を促した。
「言ってみな? 言っていいんだ」
「でも、俺は省吾が……」
おずおずと友也は言葉を紡ぐ。躊躇しながら唇は、それでも意を決して自らの意思を答えた。
「省吾が好きなんだ……」
「……わかってる。それでも、ぼくはおまえが好きだよ」
この日、ぼくは初めて友也が泣くのを見た。
零れる涙を拭おうともせず、落ちた雫がシーツの上に染みを作る。そしてぼくは、肩を縮こまらせて、小さな子どものようにしゃくりあげるその背中を、そっとさすり続けた。
優しいキスを知らない友也。獣が獲物を貪るようなキスしか知らない友也。うな垂れる友也の顔を両手で掬い上げ、ぼくは彼の唇をそっと塞いだ。最初は驚いていたけれど、彼はやがて、そっと目を閉じた。
甘く幸せな時が訪れた。
唇を触れ合わせ、何度も角度を変えて啄ばむと、胸に欲情とは違う狂おしい気持ちが湧き上がってくる。だが、それは今だけ、今このひとときだけのものだから。
「恋人同士のキスはこうやるんだよ」
唇を離して友也の髪をかき上げ、その生え際にくちづけた。チュッと濡れた音をさせて触れたら、せつなくて泣きたくなった。ぼくはそんな自分を振り切るように彼に告げる。
「最後に教えてやれてよかった」
「――最後?」

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