書籍情報

何度もあなたに恋をする【書下ろし】

何度もあなたに恋をする【書下ろし】

著者:早瀬響子

イラスト:九条AOI

発売年月日:2014年11月07日

定価:972円(本体900円+税)

もうどこにも行かないでくれ 俺は君のことになると、おかしくなってしまう 高島和(たかしまかず)臣(おみ)には17歳から2年近くの記憶がない。そのせいか黒目がちで小柄な和臣は実年齢よりも幼く見える。唯一覚えているのは、スケッチブックに残された市原(いちはら)譲(じょう)という男の顔と名前。義父の葬儀の日にやってきた、長身で端整な顔立ちの中津川寛之(なかつがわひろゆき)の家に引き取られることになった和臣。寛之は和臣が自分の兄と心中しようとしたのだと告げる。真相は?そして市原譲とは何者なのか。

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登場人物

高島和臣(たかしま かずおみ)
もうすぐ20歳。身長172cm。やや小柄で細身。黒髪に黒目がちな大きな瞳。絵を書くことが大好き。事故で17歳の誕生日位から2年間の記憶がない。ただ一人、スケッチブックに残された市原譲という人物の名前と姿だけを覚えている。
中津川寛之 (なかつがわ ひろゆき)
25歳。身長190cm程。細身だが、強靭でひきしまった体躯に整い過ぎる位整った貴族的な容貌は、実年齢よりも上に見える。体にすさまじい火傷の痕を持つ。音響総合メーカー、ナカツガワ・グループの現会長の長男。

立ち読み

「随分と都合の良い話だな。自分にとって不利なことは、全て覚えていない、でなければ頭痛が酷くて思い出せない、で芝居をし通すわけか」
「違います、芝居じゃありません……!」
叫びながらも、和臣(かずおみ)は絶望的な想いにとらわれていた。駄目だ。この人は僕の言うことなんて全く信じてくれない。
でも確かに、信じられないだろう。記憶喪失なんて、僕だって自分がこんなことになるまでは、ドラマの中のことだけだと思っていた。しかも、自分がそんな酷いことをした間の記憶だけ、無いなんて。でも本当に思い出せないのだ。それに……。
「さっきも言った通り、僕は義父や義兄から、日本で事故にあったって……。その時『いちはらじょう市原譲』さんという方と一緒で、その人は死んだって聞かされていたんです。だから……」
自分が覚えているのはその名だけなのだ。必死にそう言おうとして、和臣は、再び息を呑んだ。
その名を告げたとたん、寛之(ひろゆき)がふっと笑みも消して無表情になったのだ。前に言った時もそうだったことに思い当たる。寛之は両手で押さえ込んでいた和臣の両手を、無造作に左手一つでまとめて掴み直し、頭の上に押さえ込んだ。さらに右手だけで器用にネクタイを外し、和臣の両手首をきつく締め上げると、その端を、すぐ近くの、焼け落ちた別荘の周囲に張り巡らせたフェンスの支柱にくくりつけた。
身体が凍り付いた。もしや殺されるのか、と思った。自分の兄にそんなことをした相手になら、殺意を感じてもおかしくない。それに、軽井沢のこの辺りは閑静な別荘地で、初秋の、しかも夕暮れの今は、自分たち以外は全く人の気配はなかった。和臣は心底怯(おび)えたが、恐怖のあまり抵抗できなかった。
「えっ……」
けれど次の瞬間、寛之は思いがけない行動に出た。表情を変えないまま、寛之は再び和臣の身体を押さえつけると、右手でいきなり和臣の白いシャツに手をかけ、力一杯引き裂いたのだった。
「……!」
あっという間にほっそりとしなやかな上半身を、芝生の上でむき出しにされ、和臣は子供のようにただ目を見開いていた。傾いた日差しの中で、真っ白な和臣の肌が露わになった。初秋とはいえ夕方の、しかも高原の気候なので、空気はかなりひんやりとしている。さらに芝生の上に肌を剥き出しにされて横たわった姿勢なので、ちくちくとした刺激を全身に感じた。
その震える肌に視線を注いだまま、寛之の右手が触れ、下から上へと手を這わされる。
その手が触れた瞬間、和臣はびくんと身を震わせた。大きな力強い感触。それが意外にもゆっくりと、確かめるかのような柔らかく丁寧な仕草で、和臣の肌を撫で上げたのだ。
「あ、ッ……」
その時、思わず和臣はびくりと震え、声を漏らした。その声の何か切なげな響きに、自分でも驚いた。寛之の仕草と手の感触に、身体の奥底から何か、じんわりと痺(しび)れるような感覚がこみ上げてくるのを感じたのだ。
その反応に、寛之は食い入るようにこちらを見つめた。二人の視線が一度、合った。一瞬、和臣は、その茶色の瞳の鋭い光に魅入られたようになってしまった。
──次の瞬間、寛之がひどく苛立った様子で顔をしかめたかと思うと、目を逸らし、はいていたジーンズの金具に手をかけた。そして、下着もろとも一気に引き下ろしたのだった。
「……!何をっ……」
全裸にされ、剥き出しにされた牡茎を掴まれた時、和臣はやっと、自分が何をされるのか気づいた。弾かれたようにもがいたが、次の瞬間、思わず身をしならせた。
寛之の手が、和臣の無防備な牡茎を揉みしだいたのだ。とたん、背骨の付け根のあたりから、強烈で痺れるような快感が全身に走り抜けた。最初に身体を撫で上げられた時とは、比べものにならない快感だった。
「あッ……?あ、ンッ……」
同時に、思いもよらないことに、和臣の唇からひどく心地よさそうな、淫らな響きの声が漏れた。そして、牡茎がたちまち固く張りつめていく。あまりに速やかなその自分の反応に、和臣は呆然とした。思わず剥き出しにされた身体を捩(よじ)る。 「そんなっ、あ、あァ……」
──すごく、気持ち、いい……。どうして……──
和臣の当惑に構わず、寛之は表情も変えず手を動かし続けている。
──どうして、感じてしまうんだ……!?いきなり、こんなことをされて……。しかも、外でなのに……──
到底信じられなくて、和臣は固く目を閉じ、激しくかぶりを振りながら、彼の手を払いのけようと体を動かした。けれど身体は勝手に、さらに激しく反応していた。寛之の手の動きは、恐ろしいほど的確だったからだ。弱く感じやすい部分を捉え、執拗に責めてくる。
大きな手のひらが、震えながら身を起こしかける竿を包み込んで擦りあげ、強靱(きょうじん)な指が先端の鈴口をつつき、広げ、それから後の柔らかな肉の部分をまさぐってくる。
その動きに、和臣は全身が急激に熱くなり、ものが考えられなくなってきた。抵抗しかけていた手が震え、弱々しく芝生の上へと落ちた。特に感じやすい部分──牡茎と、触れられていないはずの胸の突起が燃えるように火照(ほて)り、しかも固く、ピンと張りつめていく。
「あ、ンッ……」
白い肌をよじらせ、和臣は震えた。
彼にそうされると、全身からみるみる力が抜けていくのがわかる。身体の奥底から強い快感がこみ上げてくる。しかも、拘束された状態で、彼の圧倒的に力強い手によって感じやすい部分を的確に責められると、何故か全てを彼に委ね、身を任せてしまいたくなるのだ。そのままどうされてもいい、いや、もっと激しくしてほしい、というような……。
「──い、いやっ!やめて、あ、あッ……」
行為自体も恐ろしかったが、何よりその行為で自分がそんな、被虐的に感じてしまうことが信じられなくて、懸命に哀願する。だがその声もすぐに弱々しく、切ないため息のようなものになった。
寛之の指が動く度に、その部分から、ジン、と痺れるような劣情が次々とわき起こり、腰の部分だけが淫らに跳ね上がってしまう。両手を頭上で強く拘束されている為だった。しかも、一番感じて張りつめてきている牡茎の先端からは、じわりと透明な露が滲(にじ)み、すぐにそれが溢(あふ)れて滴り始めてきた。
それが、寛之の手を濡らしたのか、彼が牡茎を擦るたびに、くちゅくちゅと淫らな音が聞こえてきた。感じている証だった。
「え、えっ、そんな……」
思わず頬が染まったが、それで一層身体を煽(あお)られて牡茎かさらに身をもたげ、新たに、淫らな液をこぼしてゆく。それがまた身体を追いつめていった。
「──身体は、覚えているようだな……」
「え……」
その時、低い声が耳に響いた。和臣は思わず目を開けた。
とたん、再度寛之と視線が合った。彼はずっと、こちらを見ていたのだ。顔は相変わらず無表情のままだが、その手はずっと執拗に動き続け、瞳は一層強く凝視してくる。そこには、憎しみの光があった。そして、和臣の視線に、わずかに唇を歪めて笑う。
再び、和臣は恐怖のあまり、身動きが出来なくなった。同時に途切れることなく劣情を与えられて、身体が熱く、頭がぼうっとしてきた。
その為なのだろうか。彼が恐ろしくてたまらない筈なのに、同時に何故か、間近で見る彼の瞳に魅入られるような気持ちになっていた。漆黒の、底知れぬ瞳。けれどそれがとても綺麗に見えてしまう。先ほどの、身を任せたいような想いとともに、和臣は彼の瞳に支配され、吸い込まれそうな心地になっていた。
──そうだ、僕は確かに、この瞳に見つめられたことがある……──
彼を無防備に見つめ返しながら、ふいに、和臣はそう思った。

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